7.21
そのマンションの14階 その部屋ベランダからある男がとびおりた
おとこは羽根が生えていたわけでもなく 金色の粉をあびたわけでもない
だからそのままおちた
飛びたかったわけではない
だから失敗ではない とびおりることに成功した
14階の部屋のその住人のおとこ コンクリートにつぶれてとびちった
彼のつぶれた身体は ああ、きっとそんな臭いだったとおもう
通行人はおとこがおちてきてつぶれるのを見ていた そんなに長くはなかったがみな一部始終みのがすことはなかった
すべて見ていた かおいろをかえるものはいない なにもめずらしいことではないようなめだ
そして ゆっくりとつぶれたおとこのその身体にひとびとは群がる
せっせとそのおとこの肉片をみなあつめる
だれもことばを発することはない 肉片をのこらずかきあつめている
とくに特別な感情もない
コンクリートがおとこの血液でくろくくろくなる
ひとりのうつくしい少女はコンクリートにしみこむおとこの血液体液それらをなめる
手を地につけすべてなめてゆく
しろい少女のほほにおとこの血液がぬれていた
うつくしい少女はうつくしく舌をコンクリートにはわせる
ひとびとはあつめた肉片そして彼の骨 みなそれぞれにポケットに鞄に頬にひそませる
少女が地面をなめおわる しろい少女はかわらずしろい
さわさわと群衆はちらばってゆく
なにもなかったようにひとびとは元の生活へとかえってゆく
普段となにもかわらない時間にもどる ぬるい風がゆったりふきぬける 平和をおもう
ただひとつちがうみなのポケット 鞄 頬のなかにその男の肉片 骨がひそんでいる
みななにひとつ変わらずただ男のかけらをもっている
おとこの血液体液それはそのうつくしい少女にのまれ
その舌に絡み胃液とぐるぐるまざりあっている
14階のその部屋のましたのコンクリート つぶれたおとこはあとかたもない
みなもっていかれた
ああ、ただひとつ おとこの左の目ん玉がごろり転がって
おとこの住む14階の部屋の2階したの住人の持つくるまのしたに
目ん玉はぎょろぎょろそこから見える景色をみている
感情はもたない みえるからみている
14階からとびおりたおとこは とびおりることに成功した
うまくつぶれたもんだとおもう
ただもっていかれた肉片 骨がどうなるのか 一体どうしたもんか
とびちったのうみそのかけらかけらが思っている 一体どうしたもんか